ふつう と とくべつ の境界で。

うつ病、パーソナリティ障害を抱えて生きるわたしのありのままの記録。

笑顔と写真

私は笑うのが苦手だ。

というより、

笑ったらいけないんだと思った瞬間があった。

 

それは小学6年生のとき、

卒業アルバム用の個人写真を撮る際の出来事。

 

みんな満面の笑みでどんどん写真に収められていく。

私もどきどきわくわくで順番を待っていた。

 

そして、自分の番が来て、

みんなと同じように、

自然に最大限の笑顔でカメラを見つめた。

 

何枚か撮った後、写真屋さんが言った言葉は、

 

口を閉じてるバージョンも撮ろう

 

だった。

 

私はそのころ歯列矯正をしていて、

口を開けて笑うと矯正器具がはっきりと見えるのだった。

だから、それが見えないようにという配慮だったのである。

 

でもそれまで、

そんなことを気にしたこともなく生活していた私は、

自分の笑顔は醜いんだ、

写真に残したらいけないんだ、

と思ってしまった。

幼心にすごくショックだった。

 

結局卒業アルバムには、

口を閉じて無理やり口角をあげる不自然な写真が載った。

口を閉じているのは自分だけだった。

 

それから私は笑えなくなった。

特に写真に写るときに口を開けることはなくなった。

低学年の子に、

怪獣だー!とか言われるよりも数倍堪えた。

 

友達とプリクラを撮っても、

自分だけ口を閉じて不自然に笑い、

全てが同じ表情。苦しかった。

 

でも、幸運なことに、

そんな私を救ってくれる存在に出会ったのだ。

それは中学の部活の先輩だった。

 

同じように歯列矯正をしていて目立つ器具を付けていたが、

何も隠すことなく、口を開けて、

キラッキラな笑顔で写っているプリクラを貰ったのだ。

その先輩はとっても可愛くて、

そのときすごく救われた気持ちになったことが今でも忘れられない。

 

笑ってもいいんだ

 

そう、思った。

 

今考えれば当たり前なことなのだけど、

当時の思春期の私にとっては大問題だった。

 

そこからはすこしずつまた笑えるようになった。

日常生活で深く気にすることはなくなった。

普通に笑って人と話ができる。

本当に先輩には感謝しかない。

 

でも、歯列矯正が終わってからも

写真に写るときだけはその名残はあって、

今でも歯を見せて笑う自分の顔は好きではないし、

無意識に絶対に口を閉じてしまう。

自然に笑った顔で写真に写ることができないのだ。

下手なのだ、本当に。笑い方がわからない。

 

器具はとっくに外れているのに、

肝心の笑顔をあの場所に置いてきてしまった。

 

本末転倒。

なんのための歯列矯正だったのか... 

私はあの写真屋さんのことを一生忘れないだろう。

(もちろん悪意があったとは思っていないが。)

 

今は器具が目立たないようにできる歯列矯正の方法もたくさんあるようだ。

今まわりに歯列矯正をしている人がいる方などがいたら、ほんのすこしでいいから、本当の意味での優しい配慮をお願いしたい。